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2022.07.14
2022年6月18日(土)、本学9号館グローバル?ラウンジにて、国際編集文献学研究センター主催による第一回ワークショップ?シンポジウムを開催しました。当センター設立後初めてとなる本イベントには、当日、本学学生?教員だけでなく、様々な研究機関から幅広い分野の大学院生?研究者を中心に、のべ50人の方々にご参加いただきました。ワークショップの質疑応答をはじめ、シンポジウムのパネルディスカッションでも熱のこもった意見交換や問題提起がなされ、有意義かつ実りあるものとしてイベントは成功裏に終了しました。
ワークショップ「ドイツ編集文献学を学ぶ その1」では、矢羽々崇先生(獨協大学外国語学部教授?本研究センター特別客員研究員)をコメンテーターにお迎えして、若手研究者2名によるドイツ編集文献学の基礎概念に関する報告がなされました。森林駿介さん(筑波大学大学院博士課程)は、ジークフリート?シャイベの理論をもとに、学術的編集のドイツ的なモデルともいえる「史的批判版」について、続いて冨塚祐さん(沙巴体育大学院博士課程後期)は、フリードリヒ?ヘルダーリンの著作集を例に、「学習版」と呼ばれる版の特徴とその概念規定の問題についてそれぞれ報告しました。今回のワークショップでは、とりわけドイツ語圏の近現代作家のテクスト編集について、その実例と理論的な議論が紹介されました。その後の質疑応答では、学術的編集のあるべき姿や、デジタル化が進む現代における編集の課題など、ドイツ語圏にとどまらないより普遍的な問題について活発な議論が交わされました。
シンポジウム「イタリア編集文献学の世界 その1」では、伊藤博明先生(専修大学文学部教授?本研究センター特別客員研究員)をお招きして、「『世界初のビジネス書』の発見と刊行—ルネサンスの商人?人文主義者ベネデット?コトルリをめぐって」と題して、ご講演いただきました。昨年出版された翻訳書『世界初のビジネス書 15世紀イタリア商人ベネデット?コトルリ15の黄金則』(伊藤博明訳、すばる舎、2021年)をもとに、ルネサンス時代のイタリアで活躍した商人ベネデット?コトルリが記した<ビジネス書>をめぐって、その写本や刊本、近年の校訂版編集の問題などについてお話しいただきました。コメンテーターとしてお迎えした原基晶先生(東海大学文化社会学部准教授?本研究センター特別客員研究員)からは、コトルリが活躍した当時のイタリアの政治状況について詳細な補足コメントを、同じくコメンテーターの納富信留先生(東京大学大学院人文社会系研究科教授?本研究センター特別客員研究員)からは、写本に基づく編集は純粋な原典の回復のみを目指すべきなのか、別の可能性はないのか、といった編集作業一般にかかわる重要な問題提起をしていただきました。ある時代に書かれたテクストが写本を通じて後世にどのように伝えられていくのか、のちの時代にそれを編集し出版するときにどのような解釈および編集上の違いが生じるのか、そして現在のわれわれはそれとどう向き合うべきなのか——15世紀イタリアの著作を例に、より広く人文学テクストをめぐる編集の問題?課題について、終了時間いっぱいまで熱心な意見交換がなされました。
国際編集文献学研究センターでは、今後も定期的に編集文献学にかかわるワークショップ?シンポジウムを開催いたします。その際には、改めて本学サイトでお知らせしますので、ご興味?ご関心のある方は、ぜひご参加ください。