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第3部プロジェクト

研究テーマ:パンデミック終息後の産業社会と企業経営に関する研究(2022-2023年度)

【研究の背景と目的】
 2020年3月、WHO(世界保健機構)は、中国武漢市から広がった感染症COVID-19がパンデミックとなったことを発表した。以来、世界の感染者数は増加し続け、間もなく1年半を過ぎようとしている。一時、感染者数および死者数が世界一であった米国や変異型ウイルスによって感染者数が再度急増した英国も、国民のワクチン接種が急速に進んだ結果、2021年2月以降徐々に落ちつきをみせている。また、それ以外のワクチン接種先進国でも、感染者数は落ち着きを見せるようになってきた。その一方で、13億人の人口を抱えるインドでガンマ型と言われる変異種によって感染者数が増えただけでなく、世界中に広がりパンデミック再燃する可能性があるとの懸念もある。もっとも、今次のパンデミックも、ワクチンの供給が地球規模で軌道にのりさえすれば、数年以内には山を乗り越えそうである。
 とはいえ、この間、世界中の国々の首都やそれに準ずる大都市や地域が次々とロックダウン(都市封鎖)を繰返し、4年に一度必ず開催されてきたオリンピック?パラリンピックの沙巴体育程が延期されるなど、前代未聞の出来事が世界中で起こっている。そして、いま、終息後の「ニュー?ノーマル(新しい日常)」時代のスタートが喧伝されている。確かに、各国政府の対応や対策はさまざまであった。それによって生じた多くの変化が、ワクチン接種によってパンデミックが終息したからといって、ビフォー?コロナ状態にどの程度戻るのかは疑問である。
 特に、わが国の場合、「アフター?コロナ」、「ウィズ?コロナ」や「ニュー?ノーマル」といった言葉は、「これまでとは違った新しい日常が始まる」ことを強く想起させる。というのも、それへの歩みはパンデミック以前からすでにスタートしており、地球規模の自然災害やパンデミックは,「グローバリゼーションの進展」と「情報通信技術とネットワークの進化」によって変わりつつあった社会構造の変化の速度を速めるとともに、その現象を表出化させ可視化する契機に過ぎないと考えられるからである。
 換言すれば、これらの変化促進要因が、同時に襲来したのである。これらの3つの要因も、それぞれが単独でもたらす変化であれば、それに応じた処方箋を提供することはそれほど難しくなかったかもしれない。しかしながら,変化促進要因の束は、何かが変わると,そこに「関連している」、時として「関連していない」別の部分までも変えてしまうという事態である。変化をもたらすエネルギーが複数の束になって、予測不能な状況を創出するといった状況であるために、対症療法では対処できない。
 確かに、パンデミック襲来以前までは、「グローバリゼーションの進展」と「情報通信技術とネットワークの進化」はうまくシンクロナイズしながら、われわれに少なくない便益を与えてきた。情報通信技術とネットワークの進化は、時空間の制約を大幅に縮小して、さまざまなビジネスモデルを創造してビジネスチャンスを作り出した。また、その進化は、地球規模で経済的?社会的フラット化を実現し、グローバリゼーションを大きく進展させた。マイナスが全くなかったとはいわないが、生み出されたプラス効果が人類史を大幅に進歩させてきたといえる。グローバリゼーションと情報化の「共進化」による賜物である。
 ところが、もう一つの要因である「パンデミックの脅威」が共進化の束に干渉したため、三重の収束が創出する変化エネルギーが予想外の方向に社会を変化させ、それまでの日常や常識とは異なる「新しい日常」が必要とされるようになった。「自然災害やパンデミックの脅威」に晒され、「三密の回避」が強く求められた結果、それまでの常識が非常意識となることも多くあり、人と人との物理的?精神的な関係にも少なからぬ影響を与えた。外食産業やエンタメ産業を筆頭に非日用品産業、旅行関連産業など、目の敵にされた産業?企業は、時として休業要請を受け入れたり、あるいはビジネスモデルの転換するなどによって、生き残り策を模索した。また、勤労者の一部は在宅勤務やICTを活用したリモートワークを求められ、一部は危険を承知で公共交通機関などを使って通勤せざるを得なかった。そして、一部の勤労者は、職を失うことになった。そこで、働く場所や働き方を変えることが必要となったのである。さらに、学生や生徒も、従前とは異なる学びの場や方法にチャレンジすることが求められた。生徒だけでなく教師も使い慣れない機械の使い方を学んだ後に正規科目に取り組むことが求められた。学び舎に通うことなくインターネット授業をこなしてきた2020年の新入生の中には、未だ大学のキャンパスに足を踏み入れたことのない者さえいるともいわれている。
 このように、未だパンデミックの最中にあるとはいえ、ワクチンが近々これを終息させることは確実である。しかしながら、「自然災害やパンデミックの脅威」が共進化した束に干渉し、三重の収束が創出する変化エネルギーによって予想外の方向に社会を変化させ他結果、「新しい日常」が求められるのである。もはや、社会生活や経済活動、企業活動がパンデミック以前と同じ状態に戻らないことは確実である。
そこで、本研究の目的は、パンデミックを契機に大きな変化を遂げた社会構造の中での企業行動について検討することである。つまり、1)パンデミックを契機にして、企業を取り巻く経営環境は、どういった変化を遂げているのか、そうした変化の中で、2)企業の事業展開やビジネスモデル(事業構造)は、どのように革新されるのか、また、3)そうした戦略的事業展開?ビジネスモデルが変化する中で、企業のマネジメントモデル(組織管理体制)は、どのように革新されるのか、さらに、4)ビジネスモデルやマネジメントモデルが変容する中で、ガバナンスモデル(企業統治構造)が構築されるのかあるいはすべきかについて、戦略経営的視点、組織管理的視点、人的資源論的視点、会計学的視点、情報管理的視点などから、多面的視点から検討することが、本研究の目的である。

【研究の進め方】
 本プロジェクトでは、以下の研究アプローチに沿って研究に取り組み、パンデミック終息後の企業社会について、経済学、経営学、会計学、イノベーション学など異なる視点から分析を加え、その理論化を図っていくことにする。
 まず、本研究の前提として、本研究のキーワードである「パンデミック終息後の産業?企業社会」に関連して、産業?企業社会のどういった部分が、どのように変化したのかについて検討を加える。
 第二には、その中で、どういったビジネスモデルが生まれているのかについて、経営戦略論やイノベーション論の視点から明らかにする。第三には、そうしたビジネスモデルは、どういったマネジメントモデルによって機能するのかについて、組織論、人的資源論、経営情報論,会計学の視点から理論的に検討する。さらに、そのガバナンスモデルについても明らかにし、パンデミック終息後の産業社会における企業経営の実相を明らかにする。

プロジェクト?メンバー(9名)

岩﨑尚人(リーダー)
相原章
久保田達也
塘誠
伊東昌子(客員所員)
黄賀(客員所員)
小久保雄介(客員所員)
都留信行(客員所員)
中村圭(客員所員)

研究テーマ:「新しい資本主義経済社会」におけるグローバル企業の役割に関する研究(2020-2021年度)

【研究の背景と目的】
 ここ30年を通じて急速に進展した情報通信技術(ICT)と、発展途上国の急速な経済成長とそれらの国々との積極的な交流は、グローバル規模で情報還流を促し、様々な側面で世界をフラット化させた。いうまでもなく、そこには光と影の面があった。
 例えば、80年代の終わりにITが開花する基礎が出来上がり、それが90年代に一気に花開いた。その後、ITは新しい産業としての勢いを発揮してバーチャルな価値を生み出し、そこに群がり、金融工学を巧みに扱うベンチャー?キャピタリストをはじめとする金融資本家が膨大な利益を享受することになった。しかしながら、その反面、その流れと逆行するリアルな価値を生み出す産業が食いつぶされるといった事態が生まれていたのも事実である。そこに、そうした金融資本主義に対して警鐘を鳴らすが如く、「リーマンショック」という世界的金融危機が米国や欧州をはじめとして先進諸国に多大な負の影響を与えた。もっとも、それと時を同じくして金融危機の影響が軽微であった発展途上国の経済状況が改善されつつあった。まさに、欧米先進国主導の金融資本主義経済体制に大きな変化が訪れようとしていたといえよう。
 そうした折に、ドイツを発端にして世界の産業社会で、「第4次産業革命(Industry 4.0)」という言葉が聞かれるようになった。効率性の高い製造拠点である「スマート工場」を実現することをスローガンとして掲げ、それはドイツ国内に留まることなく、スマート社会の形成に向けて、世界中の大企業の戦略行動に影響を及ぼしてきた。さらに近年では、インターネット高度化とともに進みつつある「物のインターネット化」すなわち「IoT」といった技術革新は、第一次産業革命とは比較にならないほどの規模で産業社会を大きく変容させ、グローバル化した経済社会に大きな影響を及ぼしている。さらに、AI(人工知能)やロボット工学の進化は、市場経済における仕事から何億人もの労働者を解放(排除)する見込みが現実味を帯びつつある。こうした技術革新の進化のスピードは、かつての産業社会が経験してきた幾度かの産業革命のそれを大きく上回り、変化を加速度化させているだけでなく、その規模も計り知れないほどである。
 つまり、今日の経済産業社会のこうした未曾有の変化は、従来の資本主義社会が常識とされてきたパラダイムを根幹から覆すものである。近年いわれる、「フリー経済」、「シェア経済」、「パブリック経済」などがそれに該当する。これらは、従来常識とされてきた、「規模の経済」や「範囲の経済」とはまったく次元の異なる経済価値であり、ネットワーク社会で生み出された新しい経済価値である。換言すれば、これこそが新しい資本主義経済社会においてメインストリームを成すものであり、それまでの資本主義経済社会の常識を覆す可能性をもっているのではないかと考える。
 そこで、本研究プロジェクトでは、「新しい資本主義」と呼ばれる体制がいかなるものなのか、経済学および経営学といった異なるフィールドからアプローチし、それによって産業社会にはどのような変化生じているのか、その経済原理はいかなるものなのか、また、そうした社会の中ではどういったビジネスモデルが形成され、そういった経営が試みられているのかなどについて、できるだけ学際的な視点にたって現状を分析し、そこから理論を構築していくことを目的としている。

【研究の進め方】
 本プロジェクトでは、現在の経済社会?産業社会の中で機能しているビジネスシステムが、どのような革新を遂げていくのか、また、それに伴って、日常生活や雇用などの社会環境がどのように変化するのか(しているのか)について、経済学、会計学、マーケティング、経営学、社会学などからの学際的視点から分析を進め、その理論化を図っていく。
 まず、本研究の前提として、本研究のキーワードである「新しい資本主義経済社会」の形成プロセスを明らかにする。
 第二に、「新しい資本主義産業社会」による経済的インパクトや企業行動等への影響についての検証を進めると同時に、合わせて「フリー経済」、「シェア経済」、「パブリック経済」との関連についての分析も進めていく。
 第三に、上記の研究の進捗に伴い、「新しい資本主義経済社会」のダイナミズムに関する理論構築を行うことが本研究の最終目標としている。

プロジェクト?メンバー(9名)

岩﨑尚人 (リーダー)
相原章
久保田達也
塘誠
伊東昌子(客員所員)
黄賀(客員所員)
小久保雄介(客員所員)
都留信行(客員所員)
中村圭(客員所員)

成果

伊東昌子(2021.3)「脱コモデティ化のための組織学習:ユーザ経験アプローチとしての人間中心設計の導入」沙巴体育経済研究所研究報告No.93。

研究テーマ:第4次産業革命時代の到来とビジネスシステムの革新に関する研究 (2018?2019年度)

【研究の背景と目的】
 昨今、世界の産業社会では、「第4次産業革命(Industry 4.0)」という言葉がよく言われる。この用語は、ドイツ政府が2010年に定めた『ハイテク戦略2020』の中で唱えられた言葉であり、生産効率の高い「スマート工場」を実現することをスローガンとして掲げている。そうした動きは、ドイツ国内に留まることなく、日本企業を含めてスマート社会の形成に向けてグローバルに事業を展開している、すべての企業の戦略行動に影響を及ぼしつつある。
 ここでいう「第4次産業革命」と呼ばれる時代の到来の推進力となったのは、1990年代後半以降の情報通信技術の急速な発展とそれに伴い急速に普及したインターネットである。インターネットの登場、そして、それとともに近年急速に進みつつある「物のインターネット化」すなわち「IoT」といった技術革新は、18世紀に蒸気機関が誕生し、蒸気のテクノロジーが新たなコミュニケーション?エネルギ?輸送マトリックスをもたらした第一次産業革命以上に産業社会を大きく変容させ、世界の経済社会全体に大きな影響を及ぼしている。例えば、「IoT」は、コンピュータなどの情報通信機器だけでなく、世の中に存在する様々な物体(モノ)に通信機能を持たせ、自動認識や自動制御、遠隔計測などを可能にし、自動車の自動運転を実現しつつある。また、「3Dプリンター」の登場によって、製造現場の生産体制そのものも大きく変容し、小型製品のみならず、自動車や航空機などのパーツの製造に至るまで、さまざまな物が場所を選ぶことなく製造することができる。さらに、AI(人工知能)やロボット工学の進化に伴い、AIやロボットが人間の労働に取って代わり、市場経済における仕事から何億人もの労働者を解放する見込みが現実味を帯びつつある。
 しかも、こうした技術革新の進化のスピードは、かつての産業社会が経験してきた幾度かの産業革命のそれを大きく上回り、変化を加速度化させてるだけでなく、その規模も計り知れないほどである。
 経済産業社会のこうした未曾有の変化について、経済学者たちの中には、従来の資本主義社会で常識とされてきたパラダイムを根幹から覆すものであることを指摘し、これまで経済学の中で扱ってこなかった、「フリー経済」「シェア経済」「パブリック経済」などの新しい経済が誕生してきたことについて議論を重ねている。つまり、「第4次産業革命」といわれる近年の新しい産業社会の動きは、産業構造の転換というだけでなく、これまでの資本主義経済社会を根底から覆す可能性をもっていると指摘するのである。
 そこで、本研究プロジェクトでは、今日進みつつある「第4次産業革命」の中で、産業社会がどのような変化生じているのか、またその状況はどのような理論に基づいて説明できるのか、また、それに対して企業は、どういった戦略経営を展開しようとしているのか(記述論)、また展開すべきなのか(規範論)について、経営学及び経済学の異なる視点から分析し、論じていくことを目的としている。

【研究の進め方】
 本プロジェクトでは、以下の研究アプローチに沿って研究に取り組み、第4次産業革命の到来とその進展?進化にともなって、現在の経済社会?産業社会の中で機能しているビジネスシステムが、どのような革新を遂げていくのか、また、それに伴って、日常生活や雇用などの社会環境がどのように変化するのかについて、経営学、経済学、社会学などの異なる視点から分析を加え、現象理解に努めその理論化を図っていくことにする。
 まず、本研究の前提として、本研究のキーワードである「産業革命」の歴史的変遷と、それぞれの産業革命が産業社会に与えた影響を精査し、第4次産業革命との比較を通して、そこにある共通点と相違点を明らかにすると共に、それぞれの時代のビジネスシステムについて検討を加える。
 第二には、近年進化しつつある「第4次産業革命」が、どのように産業社会の中に組み込まれ、それがどういった変化を生じさせているのかについて、自動運転などに代表されるロジスティックス体制の変化、あるいはフィンテックによる新たな金融制度改革など、関連する事例を取り上げ、そのケーススタディを通じてその実態と明らかにするとともに、それによって生じる社会変化について検討する。
 第三には、「第4次産業革命」を経済学的な視点から分析し、「限界費用ゼロ社会」等と呼ばれる新しい経済社会における人間行動について実践的?理論的に検討する。
 以上のように、経済学?経営学?社会学などといった視点から、「第4次産業革命」と言われる経済産業社会のダイナミズムの理論構築を行うことが本研究の最終的ゴールである。

プロジェクト?メンバー(11名)

相原章(リーダー)
岩﨑尚人
庄司匤宏
手塚公登
塘誠
伊東昌子(客員所員)
黄賀(客員所員)
小久保雄介(客員所員)
都留信行(客員所員)
中村圭(研究員)
松尾茉子(研究員)

成果

都留信行?岩﨑尚人(2020)『?ネオ?ニューエコノミー時代」の企業の戦略行動』沙巴体育経済研究所研究報告No.87。
伊東昌子(2020)「実践知心理学:卓越した専門職実践を支える暗黙知の発見」沙巴体育経済研究所研究報告No.89。

研究テーマ:成熟化する産業社会におけるビジネスシステムの構築に関する研究 (2016?2017年度)

本研究は、少子高齢化が急速に進み、国内市場が縮小することが確実な日本社会において、日本企業がいかにしてその存続と成長を確保することができるかに焦点を当て、それを実現するための新しいビジネスシステムの構築を理論的?実証的に検討して行くことを目的としている。
戦後70年の時を経て、名目GDPで490兆円、一人当たりGDPでもおよそ400万円までに成長を遂げてきた日本の経済社会も、大きな曲がり角に直面している。バブル経済崩壊後20年の長きに亘って経済不況が続いてきたとはいえ、多くの日本企業は厳しい経営環境の下で自ら経営革新を進め、少ないながらも収益を生み出して、それなりの成長を維持してきた。また、一部の産業に限られるもののベンチャー企業が新しいビジネスシステムの産業を生みだしてきたおかげで、幸運なことに失業率も5%を超えるまでには至らず、日本経済は、壊滅的な状況には陥ることはなかった。また、近年では、いわゆる「アベノミクス」によるマクロ環境の変化によって、投資動向に若干の変化の兆しは見え始め、日本経済の将来にも期待を持てるかに思われている。
とはいえ、日本の65歳以上の高齢化率は25.78%となり、世界一の高齢大国となってしまった。今後、その傾向は、ますます高まっていくことは確実である。しかも、高い高齢化率を経験した国はわが国が初めてであり、どこの国も経験したことない未知の世界に日本社会は踏み出すことになる。そうした社会では、労働人口が減少するだけでなく、国内市場が縮小することは当然である。グローバル化が進んでいるとはいえ、GDPに占めるサービス業の割合が71%を超えていることを考えても、国内消費に大きく依存し、成長を確保するといったビジネスシステムを構築してきた日本企業にとって、それをそのままの形で維持していくことは困難となる。まさに、日本社会、日本企業は踊り場にきているのである。
そうした社会の到来を目前に控えて、苦難を乗り越えて存続を確保してきた企業には、ビジネスシステムの革新が早急に求められている。しかし、ビジネスシステムの革新は、一朝一夕にできるものではないことはいうまでもない。事実、先の景気低迷から脱却するまでに20年もの歳月を費やしてきたが、そのビジネスシステムの革新が現状で正解であったといいきることはできない。まして、労働人口が減少し、縮小する国内市場の中では、モノ作りや売り方、サービスを変えていくだけでは、不十分であり、ビジネスシステムの全体構造を変革していくことが必要である。生産拠点や市場を国外に求めるといっても、グローバル社会が大きく構造変化する中にあって、これまでと同様のパラダイムをベースにして、ビジネスシステムを再構築しても、企業の存続と成長を確保することが困難であることは明らかである。高齢化が進んだ成熟化した産業社会には、これまでのビジネスシステムは通用しないのである。
そこで、本プロジェクトでは、経済学および経営学にまたがる研究領域から、これまでいかなる企業も経験したことのない未知の産業社会で、どういったビジネスシステムを構築していくべきかについて、1)現行のビジネスシステム(事業構造、組織管理体制、企業統治体制などを包括する企業の全体システム』が、今後、どういった変化に直面しようとしているのか、また、2)そうした社会の中で、どういったタイプのビジネスシステムが形成されるべきか、そして3)あたらしいビジネスシステムを目指して、どういった革新を実現していくべきかといった諸点を、理論的?実証的に検証し、それを理論化していくことを目的としている。

プロジェクト?メンバー(8名)

岩﨑尚人(リーダー)
相原章
小宮路雅博
庄司匤宏
手塚公登
都留信行(客員所員)
黄賀(客員所員)
松尾茉子(研究員)

成果

中村圭(2017)「「中国企業」vs「流動人材」」—親族構造と「包」の概念から見る現代中国企業組織—」沙巴体育経済研究所研究報告No.78。

研究テーマ:多極化するグローバル社会におけるビジネスシステムの構築に関する研究 (2014?2015年度)

ニュー?ミレニアム(新千年紀)を迎えてわずか10年余、過去長きにわたって世界経済を牽引してきた欧米先進諸国の経済的パワーが減退する一方で、それまで発展途上国といわれてきた国々が経済的に発展をとげ、世界経済の表舞台で活躍するようになってきた。FTA(自由貿易協定)やEPA(経済連携協定)などの交渉でも、ASEAN諸国や韓国を初めとしたアジアの新興国や、チリ、ブラジル、オーストラリア、南アフリカなどの南半球の国々が重要な役割を演じるようになりつつある。経済のボーダーレス化とグローバル化の本格化が、欧米先進国を中心に発展してきた経済社会を多極化するグローバル社会へと大きく変化させようとしている。
ニュー?ミレニアム時代の経営環境の下で事業の成長と拡大を図っていくためには、市場を地球規模で捉えると同時に、取引先やエンドユーザーとの関係の高度化や再構築を志向する企業であることが求められる。市場をグローバルな視点に立ってサプライチェーンを構築したり、ネットインフラやデジタル技術をフルに活用してB2B(Business to Business)にとどまることなくB2C(Business to Customer)をも視野に入れながら事業の成長と拡大を図っていくがことが不可欠である。かつてのように先進国が自国や他の先進国市場を中心に据えて、かつ取引先やエンドユーザーとの関係を規定的?限定的に捉えて事業を展開すべきではないことはいうまでもない。その一方、現状の全否定や継続性を無視することは困難であり、建設的なないことも多く、すべてを一挙に変えてしまえばいいといった議論は、いかにも乱暴である。既存企業の変革や事業革新は、更地に家を建てるような訳にはいかないのである。先進国市場と新興市場、未開拓市場の間で力点の置き方を変えながら新しいタイプの企業のグローバリゼーションに挑戦していくことが重要となる。
そこで、本プロジェクトでは、経済学および経営学にまたがる研究領領域から、先進国群を中心にして展開されてきた産業社会が、発展途上国を含む国々もグローバリゼーションの中心的役割を果たすような社会に進化する中で、1)現行の『ビジネスシステム(事業構造、組織管理体制、企業統治体制などを包括する企業の全体システム)』が、どういった変化に直面しているのか、また、2)その新しい動きの中で、どういったタイプの『ビジネスシステム』が形成され機能しようとしているか、さらに3)それはどういった方向に発展?進化していくのかといった諸点について、理論的?実証的に検証し、理論化していくことを目的としている。
本プロジェクトでは、具体的に、以下の3つのテーマに沿って研究に取り組み、新しい企業のグローバリゼーションに関する理論構築を図っていく予定である。
第一は、「新興国、開発途上国の消費市場化に関する研究」である。新興国における急速な経済発展は、これらの国々を労働集約型の生産拠点から、高い購買力を持つ巨大な消費市場へと既に変貌させつつある。また、途上国においても首都周辺や中核都市に限定されるが、同様の事態がやや遅れて進行している。消費市場化は、急速な経済発展によって購買力のある高所得層や中間所得層が成長したことによるものであるが、そこには、1)先進国的な生活様式への憧れや同調圧力が強く作用しつつあること、2)依然として生活コストが安価なため、購買力が耐久消費財やいわゆる「贅沢品」に向かう傾向があること、3) 社会資本の整備が不十分なまま先進的技術に基づく製品?サービスが購入されるなど遅れと先端とが混然となって消費市場化が進行しつつあること、といった特徴が見出される。上記のような形で進行しつつある消費に対して、各産業?企業は、どういったビジネスシステムを構築し、機能させているのであろうか。本研究では、現地生産?現地消費化あるいは域内生産から消費市場へと言った国際分業体制やグローバルサプライチェーンの変容に留まらず、各産業?企業の市場における個別具体的な取り組みについて、その実態と課題とを解明していく。
第二は、近年グローバル企業の間でも注目を集めるようになってきた、開発途上国の貧困層を対象としたビジネス、いわゆる「BOP(Bottom of Pyramid)ビジネスに関する研究」である。BOPビジネスの先駆的研究者であるC. K. プラハラードが指摘するように、BOPビジネスは、企業が利潤を獲得しながら途上国の社会問題解決に寄与できる新しいビジネスシステムであり、「援助疲れ」に直面する多くの先進国政府も、その持続的支援の可能性から推奨している。しかし、実際には、失敗に終わるBOPビジネスも少なくない。それにもかかわらず、そうしたビジネスシステムの成功?失敗の要因を明らかにしようとする研究は十分に行われているわけではない。本研究では、各企業が展開するビジネスモデルの特徴およびその課題を明らかにするとともに、BOPビジネスが途上国の貧困層に及ぼす経済的?社会的影響を明らかにすることによって、BOPビジネスのあり方と成功のポイントを明らかにする。
第三は、欧米諸国内にみられる「内なるグローバル化」、いわゆる「先進諸国内の多様化」にかかわる研究である。先進諸国の多くは、他国からの労働、資本、財?サービスを自国に受け入れることによってより一層複雑さを増している。労働面の変化で言えば、労働力構成の変化や女性?マイノリティに対する社会的意識の変化などに加えて、新興国や発展途上国などの国々から、単純生産労働者ではなく知的労働者、いわゆるナレッジ?ワーカーといわれる人的資本の移動、自国からの頭脳流出などといった経済社会現象がみられる。グローバル企業は、こうした経営環境の変化に対して、適応性や適合性だけに焦点を当てた従来の事業展開の構想、事業の組み立て方、マネジメント体制の構築だけでは不十分となっている。そこで、本研究では、従来とは異なる「内なるグローバル化」と「多様化」現象を組み入れたビジネスモデルがどのように構築され機能しているのか、そのメカニズムを明らかにしていくことにする。

プロジェクト?メンバー(7名):

岩﨑尚人(リーダー)
相原章
小宮路雅博
庄司匤宏
手塚公登
都留信行(客員所員)
松尾茉子(研究員)

成果

岩﨑尚人?黄賀(2015)「中国の経済成長と展望」沙巴体育経済研究所研究報告No.70。
岩﨑尚人?黄賀(2016)「中国企業の在日法人の経営体制に関するアンケート調査分析」沙巴体育経済研究所研究報告No.75。