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  • 2023.11.11

    2023年9月に実施された長野県刑事三施設参観のご報告

2023年9月に長野県刑事三施設参観に参加した朝井鉄氏(沙巴体育大学院修士課程)からの詳細な報告を掲載いたします。

9月長野県刑事三施設参観?カンファレンス報告

 今回の参観では、9月13日から15日にかけての3日間で有明高原寮、長野刑務所、松本少年刑務所を訪問しました。これを受けて治療的司法研究センターでは、10月11日(水)のカンファレンスにて、今回の参観について報告がなされました。ここでは今回の参観とカンファレンスでの報告?議論について報告致します。
今回の参観では、直前にセンター長を含めた複数人が沙巴体育感染症に罹患し、少人数での訪問となってしまいました。そのような状況の中でも様々にご協力くださった各施設の職員の方々には大変感謝をしています。この場を借りてお礼を申し上げます。
また今回の参観では長野県内の刑務所(少年院)をすべて回るという素晴らしい日程となっていました。諸方手配?ご調整に尽力くださった当センター研究員の東本愛香先生には感謝してもしきれない思いです。この場を借りてお礼申し上げます。

○ 報告要旨

?有明高原寮(短期?特別短期 少年院)

?施設の雰囲気:開放施設であることや、基本的に居住区以外の施錠がされていないことなどから、施設全体について学校所有の合宿施設であるかのような印象を受けた。
?施設の状況:非行少年の減少により寮生は少ないが、それにより従来からの特徴的な取り組みなどが継続でき、寮生にきめ細かい対応ができている。また寮生と地域住民との距離が近く、同寮は地域と極めて良好な関係を築くことができている。
?新しい取り組み:2022年より他の少年院から少年を受け入れる「出院準備特別講座」を開始したほか、出院後を見据えた処遇会議を本人を交えて帰住先の鑑別所で実施する取り組みを行っている。特に前者では、短期少年院の新たな中間施設に近い役割の可能性等について、少年院の未来が感じられた。


?長野刑務所(A?LA指標?無期 刑務所 就労支援強化施設)

?施設の雰囲気:いわゆる刑務所の物々しい雰囲気。他方で母子像を日常的に受刑者の目に触れる場所に設置している点は他の刑事施設とは異なる特徴。
?施設の状況:約半数が30-40代。処遇困難者の集禁施設ではないが入所時に精神?身体疾患、処遇困難等を抱えていた者が約57%おり、養護工場の状況も惨憺たるものであった。
?取り組み:R4指導プログラムを被収容者の刑期ごとに複数回用意して実施。このほかにH27年よりハローワーク職員が常駐し、所内内定が増加。拘禁刑導入後の取り組みについても意見交換した。


?松本少年刑務所(YB?B指標 刑務所 性犯プログラム実施施設)

?施設の雰囲気:外観としては一部少年施設の要素を持つが、基本的に成人の刑務所と同様の印象。
?施設の状況:桐分校(中学校)、桐教室(高校)、放送大学の受講便宜など、積極的に教育を実施する環境が整備されている。成人の性犯プログラム受講者を受入れているため、被収容者はY指標(26歳以下)だけではない。
?取り組み:教育に関する支援体制や、同所少年母の会との連携による取り組み、相対的不定期刑の刑期決定基準、プログラム実施にあたってのあり方等について説明を受け、議論した。また拘禁刑導入に関連して現場の感覚や意見についても伺った。


?参観の総括 ~長野県の3施設を訪問して

?異なる種類の3施設を連続して参観したことにより、それぞれの施設の特色?違い等や、長野県では比較的在所者?出所者等に対する理解が進んでいることなどがわかった。


?治療的司法研究センター カンファレンス(2023年10月11日実施)の様子

?上記内容の報告のほか、東本研究員からの追加の情報提供もあり、充実した会となった。
(文責:沙巴体育大学院 博士課程前期 朝井 鉄)

○ 報告本文

?有明高原寮(9月13日)

同寮は開放的施設処遇を旨とし、犯罪少年の短期処遇を目的とした少年院である。

施設を見学させていただいて抱いた印象は、刑事施設とは思えない、学校の合宿施設そのものであった。まず施設の敷地には塀やフェンス等が一切なく、最も「厳重な」境界線は外が透けて見える生垣であった。さらに施設内も居住区以外は基本的に施錠されていないため、施設見学の際には我々が先頭を歩いて開け放たれた扉を通り抜けることも多々あったのが印象的であった。同寮では行動訓練をせず移動時には行進を行わないなど、様々な場面において可能な限り一般の生活に近づけるように工夫されている。

今回の訪問では首席専門官による概況説明と、寮長?次長?首席との意見交換、施設見学、および施設行事?少年たちのグループワークの録画視聴を行った。以下ではそこで伺ったことを紹介していこうと思う。

?施設の状況

近年、非行少年の減少に伴って入寮者も減少傾向にあり、訪問時は寮生6名に対して法務教官が担任4名と寮主任、副寮主任の計6名となっており、寮生一人一人にきめ細かく向き合うことができる環境となっている。これまでの地域との交流(社会貢献活動、市民音楽祭等の地域行事への参加?共催等)、登山、職員と一対一での温泉カウンセリング等は継続しながら、ここ数年では職業指導として地元企業の全面協力を得てそばの栽培?製粉?販売?試食までを行うなど、新しい取り組みも行っている。地域の日帰り温泉施設で生徒?担任が一対一で入浴する温泉カウンセリングについては、これを嫌がる寮生や職員はいないのか、との質問が出たが、今までに嫌がった寮生?職員はいなかったとのことである。また同寮は古くから地域行事の共催や積極的な参加などにより地域住民との距離が近く、構外で社会貢献作業を行っている際にも地域の子どもたちから「高原寮のお兄ちゃん」と声を掛けられるそうである。

?有明高原寮の新しい取り組み

意見交換の場では特に、県外の少年院から12日間限定の移送により少年を受け入れる「出院準備特別講座」についてお話を伺った。同講座は2ヶ月に1回のペースで実施しているという。同講座は長期入院生が短期入院生である有明高原寮の寮生とともにグループ活動を行う取り組みである。同講座では、寮生に参加者を溶け込ませて新しい集団を作ることを重視しているという。参加者は生活面も含めてすべて寮生とともに活動し、普段寮生が行っている野外活動やいろり端集会(松本大学BBSの協力)、地元住民との共同作業?交歓会、セカンドチャンス!等による講話等を行っている。さらに参加者には同講座に先立って、同寮職員と遠隔にて複数回の動機づけ面接が行われている。受け入れ実績(訪問当時)としては、昨年は4回で計11名、今年は1回で4名を受入れている。

同講座の参加者選定は移送元の少年院の推薦によるため、同寮としては少年院担当者向けに推薦にあたっての基準等をパンフレットにして配布し、また移送元の生徒向けにも写真付きのチラシを作成?配布している。意見交換の場では、移送元へ戻した後のフィードバックがない点などが問題点として共有されたが、全体として両者への良い影響等や、短期少年院が新たに中間施設に近い役割を果たしていく可能性等について少年院の未来を感じる議論となった。この取り組みに関連して、近年では処遇の標準化がいわれるが、これにより進んだ取り組みを行っている施設がそれをやめなくてはならなくなるのはもったいなく、各施設がそれぞれ特色を出した取り組みを行い、「入院生個人に合わせて積極的に移動させることによって公平性を維持」しつつ、より良い処遇を目指すのが望ましいのではないか、などの意見がなされた。

また同寮は、少年を交えた処遇会議を施設内で実施するのみならず、本人や引受人?保護者?保護観察官?家裁調査官等を含めた支援関係者全員を交えた社会復帰支援会議を「必ず」帰住先の鑑別所に赴いて実施しており、これに関連して積極的な職員の取り組みにもっと着目すべき旨議論した。



?長野刑務所(9月14日)

同所は主にA指標?LA指標および無期を収容する刑務所であり、就労支援の強化施設である。

前日の有明高原寮とはうって変わり、高い塀に囲まれたいわゆる刑務所という印象の施設であった。塀の外の事務棟などがあるエリアでも警備員が居て厳重であり、収容区の塀の入口は暗証番号と静脈認証式の二重の電子錠扉が設置されているほか、塀の内側にはトラップセンサー式のケーブルが張り巡らされていた。
同所では被収容者へのメッセージのため、母子像を日常的に被収容者の目に触れる体育館前の室内に設置している点は他の施設とは異なり特徴的である。

今回の訪問では施設見学のほか、庶務課長による概況説明、および企画担当首席?教育統括?教育部門職員2名と意見交換を行った。以下では同所で伺ったことを紹介する。

?施設の状況

同所の被収容者の平均年齢は48歳となっており、約半数(48.9%)を30~40代が占め、さらに22.6%を60歳以上の被収容者が占めている。同所は就労支援の強化施設となっており、処遇困難者の集禁施設ではないものの、入所時において何らかの(あるいは複数の)精神疾患や身体疾患、その他処遇困難を抱えていた者が56.8%であり、さらに入所後も時間の経過とともに各種疾患や処遇困難状態に陥る者も多く、実際の数字はもっと大きいだろうとのことであった。同所は被収容者に関する統計を細かく取っており、この点について他の参加者から他の施設にも見習ってほしいとの意見がなされた。

施設見学の際には養護工場の様子も見学させて頂いたが、車いすや義足の者も多く、ほとんどの者が椅子に座ることができず、それぞれに合わせて作られた座椅子や床に座って作業を行っていた。さらに作業を見ても正しく作業ができている者は少なく、ただ前を見つめているだけの者も複数いるような状況であった。彼らについては、運動機能や脳機能の維持のために出勤?作業を行わせており、作業の内容も可能な限り手先を使うようなものを選んでいるとのことであった。この点につき、拘禁刑導入後の展望等についても議論した。
このほかに、各居室内では地上デジタル放送や映画等を自由に視聴できることなどが説明された。さらに同所で事故が少ない理由として、他の被収容者が無期の被収容者が懲罰を受ける事態とならないように「気を遣っている」からであるとの説明を受けた。

?長野刑務所の取り組み

意見交換では、同所はA級だけではなくLA級という長期受刑者を収容する施設のため、教育プログラムの動機付けや対応などに違いはあるのか、またその工夫について議論した。この点について同所では、R4(被害者心情理解)指導プログラムを短期(A指標)? 20年未満(LA指標)?20年以上(LA指標?無期)ごとに段階的に用意し、それぞれAコアのみ、LA第1とAコア、LA第1?Aコア?LA第2を実施するなど、以前から同所ならではの工夫が行われている。今後のプログラム改定へのシフトについても担当者の意識をうかがった。
さらに就労に関するデータをご提示いただき、平成27年よりハローワークの常駐職員を置いたことなどの効果により、所内内定率が大幅に上昇していることなど、出所者への支援の強化についてお話しをうかがった。反面、職業訓練参加者の低調であり、この点についても議論を深めた。
このほかに、同所の廊下には角々に職員用提案箱が設置されており、ほぼすべての提案箱に中身が入っていたため、参加者からも大変良い取り組みであるとの指摘がなされた。

?拘禁刑の導入に関連して

最後には、拘禁刑にかかわる一般刑事施設の変化について、首席より見通しや対応の可能性などの見解をうかがうことができた。なお具体的な拘禁刑導入後の取り組みについては、本格的な検討は始められていないようである。



?松本少年刑務所(9月15日)

同所はYB指標を中心に収容する少年刑務所であり、R3性犯罪再犯防止プログラムの実施施設である。

同所は少年刑務所であることから長野刑務所等の成人施設に近いものの、施設内にプールがある点などに特徴のある少年施設的な印象も受ける施設となっている。同所には成長期にある青年が収容されており、彼らには成長に必要な栄養を補うための青年食として通常の食事に一品を追加している。

今回の訪問では施設見学のほか、教育統括による概況説明、および教育統括?教育専門官3名と意見交換を行った。以下では今回伺った話をまとめて報告する。

?施設の状況

同所は桐分校(中学校、1年間)や桐教室(通信制高校、通常3年、中退者は続きから)があることで教育的取り組みが根付いている少年刑務所とされる。そのため教育専門官と呼ばれる教育担当職員が他施設より多く配置されている。
また同所では継続的に塩尻のきのこ農園へ外部通勤作業として1名が通勤している。職業訓練については希望者はある程度集まるものの、IQの問題等から対象者が少ない傾向にあるそうである。
なお同所はYB指標を収容する少年刑務所であるが、Y指標の入所者数が減少傾向にある上、性犯プログラムの受講のためにB指標の被収容者が移送されてくるため、同所全体の被収容者の平均年齢は29.6歳となっている。

?松本少年刑務所の取り組み

意見交換の場では特に、桐分校、桐教室、その他学力向上を推進する取り組みについて伺った。この点につき、桐分校の今後の運用の展望や、同所では数年前から放送大学に入学して勉強している者もいる(完全自費)ことなどについて説明を受け、また彼らへのサポートの方法についても議論した。
また相対的不定期刑の刑期決定について、決まった基準はないものの、仮釈放と同様に総合的な判断を行い、仮釈放と並行して判断される旨説明を受けた。さらにY指標での処遇計画の策定と内容について、および少年としての処遇目標から成人対象となる移行の時期の目標設定について、またその捉え方についてなどお話をうかがった。
加えて同所は少年刑務所であるとともに、性犯罪者処遇プログラムの実施施設でもあることからB指標の被収容者も一定数いるが、性犯プログラムの取り組みや、工夫、今後の彼ら自身が抱える被害体験への専門官や刑務官の向き合い方などについても担当者と意見交換した。
このほかに、出所前指導担当者より実際の指導や「出される不安」についてもお話をうかがい、今後の同プログラムの在り方や罪名にこだわらないプログラム作りの必要性等についても議論したほか、松本少年刑務所 少年母の会による文通プログラムの実施や無事故者への日用品の差入れ等の取り組みについてもお話を伺った。
さらに、拘禁刑導入に関連した現場としての感覚や意見についても、多くの意見をうかがうことができた。



?参観の総括 ~長野県の3施設を訪問して

今回の訪問では、少年院?少年刑務所?成人刑務所という異なる施設を同時に参観して担当職員と意見交換することで、特色やその違い、職員の姿勢や取り組みについて考えることができ、今後拘禁刑が導入されると各施設でどのようなことが起こりえるかについて、法律家?臨床家?職員とともに活発な意見交換がなされた。今回は長野県内の刑務所?少年院をすべて回ったことになるが、そこで感じられたのは、長野県では総じて教育や在所者?出所者支援に対する関心が強く、また市民もそれに理解を示しているということである。たとえば有明高原寮では地元住民との交流が活発であったし、長野刑務所でもいち早くハローワークの職員を常駐させる試みを行い、松本少年刑務所では桐分校等の取組みや地元中学校による所内での演奏会が実施されているだけでなく、松本少年刑務所母の会による支援、外部通勤も行われているという。今後拘禁刑の導入によって刑務所は大きく変わっていくことが予想されるが、その一つの方向性について示唆に富むツアーであったと感じている。今回の訪問は三施設とも電車やバスに駆け込まなければならないほど議論が絶えなかった。参加した法律家?臨床家も、各施設の職員の方々も、ともに実り多き訪問となったのではないだろうか。


?治療的司法研究センター カンファレンスでの報告(2023年10月11日実施)の様子

沙巴体育9号館グローバルラウンジにて実施された治療的司法研究センターのカンファレンスでは、上述の内容を基本として報告を行い、東本愛香研究員より現場に関わっている中で得られた知見を基に適宜補足をしていただいた。
東本研究員からは、今年(2023年)12月から始まる被害者心情伝達制度の運用方針や、拘禁刑導入後の処遇分類指標の細分化の方針等の動向について情報提供いただいた。
今回もカンファレンスの参加者には若手も多く、処遇現場としての刑事施設の実際について検討する良い機会となったと感じている。