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2024.12.04
2024年10月7日から10月9日にかけて、野口副センター長と宮澤ポスドク研究員がローザンヌ(スイス)において開催されるGlobal Observatory for Sport and Gender Equality (GO)主催の国際会議に参加しました。
1.GO Expert Meeting
2024年10月7日、ローザンヌ大学にてGO Expert Meetingが開催され、GOの事業推進に向けて従業な関係団体の代表者が一堂に会し、スポーツにおけるジェンダー平等推進の今後の方向性について議論を交わしました。GOの専門家グループは、研究機関、政策立案機関、実務機関の各分野から招聘された専門家によって構成されています。この専門家グループは、特定のテーマ分野におけるイニシアチブの開発と実施について、GOに専門的な助言と技術支援を提供しており、GOの役割や活動方針に関する戦略的なガイダンスを提供するとともに、GOの説明責任と活動の質を確保するための支援機関としても機能しています。SGEの野口副センター長は、この専門家グループのメンバーとして参画しています。
会議では、2024年から2026年にかけてGOが特に注力する、ジェンダーに基づく暴力(GBV)に関する活動計画が中心議題となりました。まず、研究アジェンダの策定について議論が行われ、GBVの定義と解釈、各国?地域における法的?文化的枠組みの比較分析、スポーツ界特有のGBV事象の特定など、多岐にわたる研究テーマが提案されました。さらに、コーチ?選手関係における権力構造の分析や競技レベル?種目別のリスク評価、既存の安全対策プログラムの効果測定なども重要な研究課題として挙げられました。
加えて、女性アスリートの健康に関する研究にも焦点が当てられ、月経周期と競技パフォーマンスの関連性、妊娠?出産がキャリアに与える影響、メンタルヘルスとジェンダーの関係性などが重要なテーマとして認識されました。
次に、グローバルデータベースの構築について議論が行われました。世界各国の研究成果や政策情報を集約するこのプロジェクトでは、多言語対応の必要性、データの品質管理と信頼性の確保、個人情報保護とデータ共有の倫理的配慮など、様々な課題が指摘されました。
国際協力体制の確立に関しては、地域ハブの設置や世界各地の研究機関とのネットワーク形成、地域特性を考慮した研究推進などが提案されました。また、国際女性スポーツワーキンググループ(IWG)やUNESCOとの差別化と協調、各国政府機関やNGOとの協力関係構築の重要性も強調されました。
今後の展望として、2025年までの短期目標にデータベースのパイロット版開発と試験運用、四半期ごとの専門家会議の定期開催が設定されました。長期的には、持続可能なグローバルデータプラットフォームの確立と各国のジェンダー平等進捗状況の可視化?比較分析を目指すことが確認されました。
この会議において、SGE副センター長の野口氏が国際的な取り組みに対するアジアの視点から重要な提言を行いました。野口氏は特に、多言語対応の重要性を強調し、非英語圏の政府や研究者にとって言語がデータベース活用の大きな障壁となる可能性を指摘しました。これは、西洋中心的な取り組みから脱し、グローバルな取り組みを実現する上で極めて重要な視点です。
さらに野口氏は、統一指標の設定の必要性を強調しました。特定の指標を設定し、各国の比較を可能にすることで、各国の現状と進展を客観的に評価することが可能になると述べました。SGEは、ASEAN地域の特性に適合し、実際のデータ収集が実施可能な指標について、GOと協議を進めています。
2.2024 annual Conference of the Global Observatory for Gender Equality & Sport+
二日目は、オリンピックミュージアムにて開催される国際会議、2024 annual Conference of the Global Observatory for Gender Equality & Sport+に参加しました。本会議では、スポーツ界における女性のリーダーシップ向上とジェンダー平等の実現に向けた多様な取り組みが議論されました。野口副センター長も登壇したセッション1では、スポーツ組織における女性の参画促進策が紹介されました。会議では、世界各国の女性とスポーツをテーマとした写真展が開催されたほか、参加者同士が交流を深めるためのネットワーキングの場も提供されました。
まず、Lucy Piggot氏は、イギリスの事例を基に、スポーツ組織における多層的な課題を指摘しました。形式的な構造レベル、文化的レベル、個人レベルでの障壁が複雑に絡み合っていることを説明し、特に黒人女性リーダーが直面する独特の課題を挙げ、インターセクショナリティの視点の重要性を強調しました。
続いてRachel Mack氏は、TAFISAのGirls' Positive and Safe Coaching Pathwayプログラムを紹介し、女性?女児のスポーツ参加における障壁除去に向けた具体的な取り組みを報告しました。500人以上のコーチにリーチし、その75%以上が女性であるという成果を挙げる一方で、非英語圏からの参加の少なさや長期調査の難しさなど、グローバルな取り組みにおける課題も指摘しました。
Sergey Lyzhin氏は、ASOIFの女性リーダー育成支援プログラムの成功事例を紹介し、国際スポーツ連盟における女性リーダーの台頭を報告しました。このプログラムがスポーツ政治の理解促進にも寄与していることを強調し、リーダーシップ育成がスポーツ界全体の文化変革につながる可能性を示唆しました。
これらの欧米中心の事例に対し、野口副センター長はASEAN諸国におけるジェンダー平等とスポーツの関係性について、その複雑な文化的?歴史的背景を踏まえて詳細に説明しました。ASEAN諸国のジェンダー規範が植民地化以前から現代のグローバリゼーションに至るまで、様々な影響を受けて形成されてきたことを強調し、スポーツにおけるジェンダー平等の推進には、これらの背景を十分に理解することが不可欠であると指摘しました。
野口副センター長は特に、データ収集の重要性と課題について言及し、多くのASEAN諸国でジェンダー別のスポーツ参加データが不足していることを指摘しました。このデータ不足が政策立案の障害となっており、各国政府や国内オリンピック委員会(NOC)との協力によるデータ収集能力の向上が急務であると述べました。
さらに、野口副センター長はスポーツ庁から委託を受け実施しているプロジェクトを通じて、ASEAN諸国のスポーツにおけるジェンダー平等促進に取り組んでいることを報告しました。各国の文化的背景や既存のジェンダー規範を尊重しつつ、変革を促すことが重要なこと、外部からの押し付けではなく、各国が自身の優先課題を特定し解決策を見出すプロセスを支援することの重要性を述べました。
これらの発表を通じて、スポーツにおける女性のリーダーシップとジェンダー平等の実現には、多層的かつ文化的背景を考慮したアプローチが必要であることが明らかになりました。形式的な制度改革だけでなく、文化的な変革、個人の能力開発、そして組織全体のシステム変革が求められています。また、欧米とASEAN諸国の事例を比較することで、グローバルな視点と地域特有の課題を両立させた取り組みの必要性が再確認されました。
今後は、ジェンダー平等に関する共通指標の開発と各国の状況に応じた個別指標の設定、データ収集?分析能力の向上、政策立案者の意識改革、草の根レベルでの取り組みの支援など、多面的なアプローチが求められています。本会議は、これらの課題に対する国際的な協力の重要性を浮き彫りにし、今後のスポーツ界におけるジェンダー平等推進の方向性を示す貴重な機会となりました。
3.Global Observatory Academic Partners' Meeting
2024年10月9日、ローザンヌ大学にて、Global Observatory Academic Partners' Meetingが開催されました。この会議は、Global Observatoryの研究とデータ成果に貢献するための具体的なパートナーシップの在り方を議論する場として設定されました。
会議では、まずGlobal Observatoryのデータベースプロジェクトの概要が説明されました。このプロジェクトは、グッドプラクティス、リソース、研究、政策動向を共有するデジタルプラットフォームの開発を中心としており、政策決定者向けに合わせた学術研究を紹介し、具体的な推奨事項を提示することを目指しています。
続いて、各参加機関から優先事項とリソースの概要が報告されました。SGEは東南アジア諸国との良好な関係を活かした政策開発情報の収集?提供について、ルイジアナ州立大学(Louisiana State University)はWomen's Sports and Health Initiativeの立ち上げと幅広い研究活動について説明しました。ラフバラ大学(Loughborough University)は多様な研究分野とフェローシッププログラムの活用、ステレンボッシュ大学(Stellenbosch University)はアフリカでのデータ収集活動と「スポーツ後の人生」に関する研究について報告しました。Power to Period Playは月経の健康に関する取り組みを、Mt. St. Mary's大学は女児のコーチングとグッドプラクティスとして共有可能な開発リソースについて発表しました。また、グリフィス大学のSport and Gender Equality研究ハブからは、ジェンダーに基づく暴力、障害者支援、インクルージョンに関する研究成果が共有されました。
野口氏は、SGEが東南アジア諸国の政府や国内オリンピック委員会(NOC)と良好な関係を築いていることを強調しました。この関係を活かし、各国のスポーツ政策開発に関する情報、特にジェンダー平等推進に関する情報を収集し提供できる可能性があることを説明しました。
また、野口氏は沙巴体育が現在、スポーツ庁から委託を受けている日ASEAN事業についての報告もおこないました。この事業を通じて、各国の政策開発の状況や優先事項について情報を収集し、Global Observatoryに提供できる可能性を示唆しました。
一方で、野口氏は言語の壁に関する課題も提起しました。特に、カンボジアやタイなど、英語以外の言語を使用する国々からの情報収集と、それを英語で発信することの難しさを指摘しました。各国の文脈や概念を適切に翻訳し伝えることの重要性と、同時にその困難さについて言及しました。
さらに、野口氏はデータベースやダッシュボードの利用に関して、言語の問題が大きな障壁となる可能性を指摘しました。英語圏の国々にとっては有用なツールでも、非英語圏の国々にとっては、自国の情報を英語のプラットフォームに提供することの意義や必要性を理解してもらうことが難しい場合があると述べました。
最後に、野口氏は日本の研究者との協力の可能性についても言及しました。日本のスポーツ環境におけるリーダーシップやメディア表象、LGBTQI+に関する研究を行っている研究者との連携を提案し、これらの研究成果を要約して Global Observatory に提供できる可能性を示唆しました。
会議では、ポスドクや修士課程の学生間のコラボレーション推進、地域ごとのフレームワーク作成とその連携の可視化、多様性を保ちつつ統合するアプローチの重要性が議論されました。また、言語の壁や予算の不確実性などの課題に対する対策も提案されました。
今後の展望として、四半期ごとのオンラインミーティングと年1回の対面会議の開催、テーマ別リーダーシップの割り当て、フェローシップや研究者交換プログラムの拡充、大規模大学との連携強化、アジア、アフリカ、ラテンアメリカ地域との協力関係拡大などが提案されました。
4.その他:国際オリンピック委員会本部視察とセミナー参加
3日間の会議の合間にて、国際オリンピック委員会(IOC)本部を視察しました。IOCがどのようにジェンダー平等を推進しているのか、その取組と課題について情報共有を行いました。
また、10月10日に開催されたSéminaire interdisciplinaire de recherche– L’athlète-femme dans le sport internationalにポスドク研究員の宮澤が参加しました。ジェンダーに基づく暴力(GBV)について、国際的にどのような議論がなされているのか情報収集を行い、SGEが実施している日ASEAN事業についての情報共有も行いました。