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2024.12.16
SSS#5 日ASEANフィリピン調査報告
沙巴体育スポーツとジェンダー国際平等研究センター(以下、SGE)は、YouTubeチャンネル『Sport for Social Solutions (SSS)』を運営しています。本チャンネルでは、専門家や行政関係者、アスリートなどの幅広いゲストとともに、社会課題解決のプラットフォームとしてのスポーツに光を当て、情報提供や意見交換を行います。
沙巴体育スポーツとジェンダー平等国際研究センター YouTubeチャンネル:
SSS第5回目のテーマは「日ASEANフィリピン調査報告」。
スペインやアメリカの植民地時代を経て独立を遂げ、今や7,100以上の島々から成る国、フィリピン。国民の約8割がカトリック教徒であるこの国のジェンダー観や女性スポーツの現状とは?
スポーツ庁の再委託事業として、SGEが進める「ASEAN-JAPAN Actions on Sport: Gender Equality」。このプロジェクトでは、日本とASEAN10カ国の政府が連携し、スポーツを通じたジェンダー平等の実現に取り組んでいます。この事業の大きな柱の一つとして2023年から実施しているのが、日ASEAN諸国の女性および女児のスポーツ参画における課題とニーズを明らかにするための実態調査です。
今回のSSSでは、インドネシア、ベトナムに続き、2024年1月に実施したフィリピンでの調査の報告をSGEポスドク研究員の古田映布と宮澤優士が行いました。
「スポーツに女性が連想されない」
現地で調査を行った古田は、ソーシャルメディアの普及などによって若年層には変化が見られるものの、フィリピン社会には依然として「女性は男性を支えるべき」という伝統的な価値観が根強く残っていると指摘します。女性は家事や育児を優先するべきだという価値観の中で、特に女子学生はスポーツよりも学業を優先することが求められる傾向が強いといいます。さらに、経済的安定を重視する視点からも、女性がスポーツで生計を立てるのは難しいという現状から、学業に集中することがより強調される傾向にあることを説明しました。
そして、古田はこれらの考え方の背景には、宗教的な影響もあると話します。
「フィリピンは8割がカトリック教徒で、カトリック教には男性優位主義的な精神が根強く残っているといろいろな調査や研究で言われています。そんな考え(影響)も垣間見るインタビューだったなという風に感じています」
男性中心の視点で築かれてきたスポーツ界
フィリピンのスポーツ界では、意思決定層の多くが男性で占められており、その影響で仕組みや環境が男性視点で設計されてしまう傾向にあるそうです。このような女性の声が反映されにくい環境の中では、女性がスポーツでキャリアを築くのが難しくなってしまっています。
さらに、古田は、インタビューの中で話された女性のスポーツ参加や継続を妨げる要因についても言及しました。主な課題として、女性アスリートの妊娠?出産後の復帰の難しさ、セカンドキャリアの選択肢の少なさ、女性や女児向けのスポーツ施設の不足、女性コーチの少なさ、そして女子スポーツのプロリーグやチームの不足などが挙げられました。
1週間に45分:学校体育における課題
続いて、話題はフィリピンの学校体育の現状に移りました。フィリピンでは、1週間に45分という限られた時間しか体育の授業が設けられておらず、さらに体育教員への研修制度も十分に整っていないそうです。このため、授業内容も男子生徒にはバスケットボールを、女子生徒には運動遊びを「やらせている」だけの状況になってしまっており、「運動に親しみを持てる」内容には程遠いことが分かりました。こうした現状が具体的に共有され、体育教育の質向上が求められていることが浮き彫りになりました。
スポーツを通じたジェンダー平等の実現
宮澤は、今回の調査で注目すべき点として、調査対象者のジェンダー平等に対する課題意識の高さを挙げました。フィリピンでは、Sport Commission(日本でいうところのスポーツ庁)の中に、女性スポーツの推進組織が設置されており、ASEAN諸国の中でも特に女性のスポーツ環境整備に対する課題意識が高いことが分かりました。
古田は、女性スポーツを推進する部門のトップの方の言葉が印象的だったと話します。
「女性がスポーツに参加することというのは、ただスポーツに参加できるだけではなく、その活動が可視化される、みんなに見える状態になっていくことで、女性が男性と同じ能力を持っていることだったり挑戦する精神を持っていることを示す重要な手段になると言っていました。スポーツが家庭だったり地域社会での女性の地位や女性へのリスペクトも高めるプラットフォームになっているというのをお話されていて、スポーツの価値を幅広く、ただ競技力だけじゃなくて、いろんな意味があるというのを訴えられているのが印象に残っています」
また、今回の調査では、Phillipenne Sports Commissionの紹介で、スポーツを通じた青少年育成プログラムや、暴力や性的虐待などのトラウマからの回復を支援するプログラムを提供している地元団体へのインタビューも実施されました。
古田は「お話する中で、本当にいろんな意味でのスポーツの価値というのをすごく感じましたし、改めてスポーツにはいろいろな教育的価値があるなっていうのを実感しました」と調査を振り返りました。
2023年度に実施されたインドネシア、ベトナム、フィリピンの3カ国を対象とした調査は、今後のASEAN地域におけるさらなる調査の基盤となる重要な一歩となりました。宮澤は、「これからまだ調査していくわけですが、今回の参加国の調査を本当に重要な基礎としながら、次にまた良い調査ができるようにしていきたいなと思います」と述べ、今後の調査活動への意欲を語りました。
今回の記事のフル動画はこちらよりご覧いただけます。